「統計的に有意」にだまされてはいけない

科学論文やニュース記事などで、「統計的に有意」という表現を目にしたことがあるのではないでしょうか?一見、説得力がありそうなこの言葉ですが、実は誤解を招きやすい側面も持ち合わせています。
今回は、「統計的に有意」が本当の意味するところを分かりやすく解説し、統計結果だけを見て安易に結論を導き出すことの危険性について警鐘を鳴らします。
統計的に有意とはどういう意味か?
「統計的に有意」とは、ある研究結果が偶然ではなく、何らかの規則性や関係があることを示す言葉です。例えば、新しい薬の効果を調べる実験で、薬を服用したグループと偽薬(プラセボ)を服用したグループの症状を比較します。その結果、薬を服用したグループの方が症状の改善率が明らかに高かった場合、「薬の効果が統計的に有意である」と結論付けられます。
つまり、「統計的に有意」とは、結果が誤差として生じうる確率が低い、すなわち、誤差として処理できないほどはっきりした差や効果があるということを意味しているのです。
p値を使って判断する
「統計的に有意」かどうかは、p値(ピー値)という指標を使って判断されます。p値は、結果が偶然に生じる確率を表す数値です。一般的に、p値が0.05以下の場合を「統計的に有意」とします。
つまり、p値が0.05以下であれば、結果が偶然に生じる確率が5%以下となり、何らかの規則性や関係があると判断できるレベルということになります。
参考までに、2つの集団の平均値に差があるかどうかを検定し、p値を求めるプログラムを書いてみます。詳細な説明は割愛しますが、平均値の検定にはt検定と呼ばれるものを使用します。
import scipy.stats as stats # データの準備 data1 = [10, 20, 30, 40, 50] data2 = [20, 30, 40, 50, 60] # t検定の実行 t, p = stats.ttest_ind(data1, data2) # 結果の表示 print("t検定統計量:", t) print("p値:", p)
有意水準と合わせて考える
「統計的に有意」かどうかは、有意水準という基準値と合わせて考える必要があります。有意水準は、「偶然の結果である」と判断してしまう確率をあらかじめ設定したものです。一般的に、有意水準は5%に設定されます。
つまり、有意水準5%の場合、本来は偶然の結果なのに「統計的に有意」と判断してしまう確率が5%であることを意味します。
必ずしも大きな意味があるとは限らない
「統計的に有意」であることは、結果が偶然ではないことを示すのみであり、必ずしも大きな違いや効果があることを意味するわけではありません。
例えば、ある薬の効果を調べる実験で、薬を服用したグループと偽薬(プラセボ)を服用したグループの症状の平均値を比較したところ、0.1ポイントだけ薬の方が高かったという結果が出た場合でも、「統計的に有意」と判断される可能性があります。
しかし、0.1ポイントという差は臨床的に意味があるかどうかは別問題です。
限界を理解する
近年、「統計的に有意」という指標の限界について指摘する声も上がっています。例えば、以下の点が問題点として挙げられています。
- pハッキング: 研究者が、有意な結果が出るまで何度も解析方法を変えるなど、不適切な操作を行うことで、あたかも「統計的に有意」な結果であるかのように見せかける行為
- 再現性の低さ: 過去の研究結果が、別の研究で再現できないという問題
- 多重比較問題: 複数の統計分析を行うと、偶然に「統計的に有意」な結果が出てしまう確率が高まる問題
これらの問題点を踏まえ、「統計的に有意」という結果だけを見て安易に結論を導き出すことは避けるべきとされています。
総合的に判断することが重要
科学的な結果を評価する際には、「統計的に有意」かどうかだけでなく、以下の点も総合的に判断することが重要です。
- 研究デザインの妥当性: 研究方法に問題がないかどうか
- 効果の大きさ: 統計的に有意な差が、臨床的に意味のある大きさかどうか
- 他の研究との整合性: 過去の研究結果と整合性があるかどうか
- 専門家の意見: 該分野の専門家がどのように評価しているか
「統計的に有意」は、科学論文などでよく目にする表現ですが、誤解しやすい言葉でもあります。「統計的に有意」の意味を正しく理解し、他の情報と合わせて総合的に判断することで、より客観的な視点を養うことが重要です。